コンテンツマーケティングやオウンドメディアの事例では、必ずと言っていいほど花王のオウンドメディア「マイカジスタイル」の紹介記事と出会う。しかし一方で詳細に解説した記事は驚くほど少ない。大手でキャッチーだからという理由だけで取り上げられ、その戦略や工夫には焦点が当たることないままであった。そんな中、2014年10月、LIONがデジタルマーケティング構想を発表し、オウンドメディアの「Lidea」がオープン。アドテクとオウンドメディアを融合したデジタルマーケティング戦略に注目が集まった。
花王の「マイカジスタイル」とLIONの「Lidea」。大手の日用品メーカーが展開するオウンドメディアを比較することで、それぞれの工夫と戦略を明らかにしたい。
家事に特化する花王/生活情報全般を対象とするLION マイカジスタイルとLideaは、一見すると非常によく似ている。どちらも掃除・洗濯などのホームケアに関するハウツーやライフハック記事を提供しているからだ。しかし、丁寧に掘り下げてみると、両方は全く異なるメディアであることがわかる。
花王のマイカジスタイルは、自身を「新しい家事スタイルを提案するメディア」と標榜している。掃除洗濯がメインカテゴリで、「なにを綺麗にするか」「どうやって綺麗にするか」の軸でコンテンツが整理されている。花王がオウンドメディア設立に至ったのは、これまでの家事のイメージとして、「主婦が毎日行うもの」であったが、ライフスタイルの多様化するにつれ、家事のスタイルも多様になっている、という背景がある。ライフスタイルを「家事」という視点で切り込みを入れて、様々なアイディアを提案するというのがサイトの目的である。
↑マイカジスタイル のカテゴリは「洗濯」「掃除」「食器洗い」であり、家事に特化している
次にLIONのLidea であるが、こちらは掃除洗濯カテゴリもしっかり用意しつつ、マイカジスタイルがカバーしていない「デンタルケア」「ヘルスケア」領域のコンテンツを用意している。また会員登録すればユーザーが専門家に質問できる機能も用意されている。つまり、Lideaはマイカジスタイルよりもカテゴリが広く、さらにQ&Aも用意することでより幅広いユーザーにリーチできる仕組みを作り上げている。この違いは、LIONのオウンドメディア戦略が花王とは全く違うものであることに由来する。後述するが、LIONはオウンドメディアだけではなくペイドメディア、アーンドメディアを組み合わせて、生活者と広く接触することに注力している。
↑歯とお口の健康、健康・美容のカテゴリでヘルスケア領域をカバーするLION
外部ライターを起用する花王/社内専門家を活用するLION 花王は外部ライターを20人程度起用し、1日2記事ほどの頻度で定期更新している。家事をテーマしているためライターには女性が多く、料理や家事、家電領域を得意としているようだ。”時短家事”を提唱する本間朝子さん、整理収納コンサルタントで出版経験もある本多さおりさんなど著名なライターも記事作成に協力している。また、マイカジスタイルには編集機能が存在し、ブランド横断型で企画することができる強みもある。
↑マイカジスタイルの執筆を担当するライター
一方、ライオンには社内専門家である「暮らしのマイスター」がいる。2011年の設立以来、定期的に暮らしに役立つ情報の発信し続けており、マイスター自身がビデオに登場して解説することも多い。そのため、マイスターは専門家と広報を兼ねる存在であり、ライオンのオウンドメディア戦略に欠かせないものとなっている。現在、オーラルケア、ヘルスケア、リビングケア(掃除)、ファブリックケア(洗濯)それぞれの領域に特化したマイスターがおり、彼ら/彼女らが記事執筆や投稿された質問への回答を担う。
↑暮らしのマイスター がライオンのオウンドメディアの中核を担う
ブランディングと価値提示を重視する花王 花王がマイカジスタイルを通して達成したい事業的なゴールはなんだろうか。それは「家事市場における花王の地位向上」と「新しい家事概念の浸透による事業拡大」である。 現在、花王はトイレタリー業界ではトップクラスであり、LIONの3倍近い売上を誇る。すでにホームケア、ファブリック用品ではNo1を獲得しているといっても過言ではない。今後花王はトイレタリー業界のマーケットリーダーとして市場を拡大させ、ブランディング・付加価値創出などの競争点を作らなければならない。マイカジスタイルは花王のマーケットリーダー戦略の一環であり、「花王の地位向上」「新しい家事概念の浸透」という事業ゴールに反映されている。
参考:オウンドメディアによるコンテンツマーケティング戦略
トリプルメディア+DMPでユーザーデータの可視化を図るLION 花王とおなじオウンドメディアを保有するLIONだが、彼らが描く未来像は、花王とは全くの別物だ。
LIONの目的は「生活者とのOne To Oneコミュニケーションを実現すること」にある。それは、ユーザーのオンラインデータとオフラインデータを統合してユーザーの広告接触から購買までの流れを可視化し、分析しセグメントされたグループ毎にメールマガジンやバナー広告を配信する世界である。統合されたデータは営業戦略やマーケティングの意思決定材料となる。中長期的に販売店への情報サポートのような利用も視野に入れているようだ。
参考:ライオン、プライベートDMPの導入でOne to Oneマーケティング実現を目指す
LIONがオウンドメディアに求めることは、「ユーザーとの接触点を最大化させる」「コミュニケーションを実現する」の2点であると考えられる。
SEOでは自社独自のオリジナルコンテンツを蓄積し、外部提携は極力控えることが重要であるが、それにこだわり過ぎるとメディアの成長を阻害してしまう。時にはターゲットユーザーを獲得するためにコンテンツを提供することも必要だ。LIONの中村大亮氏は「コンテンツパートナーを増やしてLideaの露出を増やしていくことも考えている」と述べており(*1)、以前LIONはマイスターの執筆した記事を提供した実績もあり、今後はこのような取り組みが増加すると考えられる。
*1:日本一の生活情報メディアをつくる!満を持してリリースしたライオンのオウンドメディア「Lidea」構想
↑マイカジスタイルとLideaの比較
メーカーはいかにWebを活用するか 花王とライオンは、企業規模こそ違うが、同じ日用品・トイレタリー業界に属するメーカーであるという点は変わらない。
日用品メーカーにとって、Webサイトとは売上に直結するものではない。なぜなら日用品はネット広告よりもテレビCMなどのマス広告と相性が良く、いかに消費者の記憶に残り店頭で手にとって貰えるかに左右される商材であるからだ。ネットで購入する時も楽天やAmazonを利用するのが一般的である。
しかし一方でTVの接触時間は減少し続けており、対照的にネットは増加している。スマートデバイスが普及し、ソーシャルメディアが一般的になった。消費者をめぐるメディア環境は、以前とは大きく異なる。
日用品メーカーはいかにWebと向き合い、活用するか。売上に直結するものではないからこそ、Web戦略においては「信頼関係の構築」「コミュニケーション」といった数値で計測できない指標が重要になる。
消費者は特定のブランドに固執しない。TwitterやFacebookでキャンペーン展開をするだけでは消費者の心理をつかめない時代だ。花王もライオンもブランド横断でコンテンツを統合し、消費者に新しい価値を提示し、積極的にコミュニケーションを図っている。これからも日用品メーカーのオウンドメディア戦略は他の業界とは違った動きを見せるはずである。