昨年の12月に日本でも適用が開始されたベニスアップデートですが、このアップデートにより「検索順位」はどの様に変化したのでしょうか。
今回はベニスアップデートが作動する条件やその精度、Yahoo!とGoogleの認識の違いに関して調査をしてみました。
Googleベニスアップデートとは、地域性が高いキーワードで検索された場合、ユーザーの場所を考慮した検索結果を返すアルゴリズムの事を指します。
名古屋でクレープと検索した場合、名古屋周辺のクレープ屋さんの結果が表示されるアルゴリズムです。
ベニスアップデート自体は、米国では2012年の段階でリリースされていましたが、日本でも2014年の12月から徐々に実装が始まったと思われます。
参考:Search quality highlights: 40 changes for February
上図はベニスアップデートによって変化した検索結果の例です。
「アルバイト」と東京で検索すれば、東京都で募集がかかっているアルバイト詳細ページが表示され、「粗大ごみ 処理」と名古屋市で検索すれば、名古屋市役所のHPが表示されます。
以上の様に、ユーザーの場所に基いて検索結果が変化するアルゴリズムが日本でも導入され始めた事になります。
ユーザーにとっては、わざわざ地域名を検索語句に含めなくとも自分の場所に基づいた検索結果が表示されるので、利便性は高くなるものの、Webマーケティングの効果指標でもある「検索順位」の測定は極めて難しくなった事を意味します。
Google での現在地の変更によると、場所の自動検出方法としてIPアドレスとロケーション履歴、直近で検索した場所の3つが利用されているようです。
大半の場合、ユーザーに何かの設定を強いること無く、多くのユーザーで判断できるIPアドレスを使って、ユーザーの場所を判断している想定されます。
信ぴょう性は定かではありませんが、IPアドレスによる判断が最も使われているとした場合、どの位の精度でGoogleはユーザーの場所を割り出し、検索結果を返しているのでしょうか。
考えられる疑問点:
1)IPアドレスによる地域判断はどこまで正確なのか?
2)携帯電話回線の場合、どこまで正確か?
3)Geolocation情報が少ない場合、どう変化する?
その前に、IPアドレスとは何か説明してみたいと思います。
IPアドレスとは
IPアドレスとは、インターネット上におけるパソコンやSP(デバイス)の判別番号と考えて良いでしょう。インターネットに繋がっているデバイス全てにIPアドレスが割り当てられ、その識別番号をもとにデータのやりとりを行っています。
参考:Wikipedia – IPアドレス
そのIPアドレスにはGeolocationという情報が含まれており、接続先デバイスの場所に関する情報を取得する事ができます。
▼取得できる位置情報例
・国(Country)
・地域(Region)
・市区町村(City)
・経度緯度(Latitude/Longitude)
実際に今利用しているデバイスのIPアドレスの情報を見てみましょう。
ipinfo.ioにアクセスすると、IPアドレスとホスト名、city、region、country、経度緯度、ネットワークオーガナイゼーションが表示されます。
尚、インターネット回線業者にはIPアドレスに関する地域情報を示す義務は無く、サードベンダー企業が自らIPのGeo情報を解析&更新し、保有、販売しています。
Google社は自社でIP Geolocationの情報を保有しているのか、それともサードベンダーから購入しているのか不明です。
尚、GoogleがIPアドレスからのGeolocationをどの様に認識しているか確認するには、検索結果の下部を見ると分かります。
インターネットアドレス(=IPアドレス)から認識された場所が表示されます。
各社、IP Geolocation情報の解析や更新が異なる為、認識している地域情報も各社によって大きく異なります。
固定回線の場合、多くのISPは地域ごとにIPを振り分ける傾向にある為、アクセス元の住所とIPのGeolocationに大きな差はありません。
しかし、これもISPによって異なり、臨時にIPアドレスが振り当てられた場合は、Geolocationとアクセス元の住所が大きく異なる場合もあります。
参考:IPアドレスの流動性/割り当て地域の変更
携帯電話回線の場合は、非常に広い範囲をカバーする電波を通してユーザーとの通信を行い、各アンテナを集約・管理する基地局は広範囲で1つの配置と考えられる為、Geolocation精度は低くなると考えられます。
参考:スマートフォンリスティング広告の地域セグメントはなぜ正確に配信されないのか?の詳細
以上がIPアドレスに関する説明でした。それでは、実際にGoogleがどの位の精度でIPアドレスからの場所を認識し、検索結果を返しているか検証してみましょう。
IPアドレスとSERPsの変化を調査
今回調査に利用した回線は合計6つです。
一般的な端末(PCやスマホ)がインターネットに接続するための回線と、データセンターにあるサーバー回線の2種類で調査しました。
上図は調査したキーワードの一部です。
地域性が強いと想定されるキーワード(単ワード)の検索結果を比較しました。
上図は個別キーワード「カフェ」の例です。以上の様に、同じキーワードで検索した際、何位にどのURLが表示されるかを比較しました。
Geolocation情報が実住所と最も近い光固定回線のOCNを基準に、OCNの順位&LPのURLとの差分率を算出しました。
やはりGeolocation情報が取得しにくい携帯系回線は差が見られましたが、それ以上にVNP回線はベニスアップデートがほぼ効いていない検索結果となりました。
・auとOCNは近い結果となったが、他携帯系回線とはやや差異が見られた
・サーバー系日本回線とISP系日本回線に大きな差異が見られた
・サーバー日本回線と米国回線との違いは殆ど見られなかった
家庭向けや携帯向けの回線は大きな範囲であるものの、Geolocationによる地域識別が機能しているのに対し、データセンターに振り当てられているIPアドレスにはアクセス元の場所認識が出来ていない事が分かった。
※ちなみに今回使用したサーバーは東京都内のデータセンターにある
データセンターの住所をGeolocationに載せるのもセキュリティ上とIP情報の目的から考慮しても適切ではない為、恐らくGeolocationが載っていない若しくはGoogleが認識出来ていない可能性がある。
以上の様に、携帯回線のIPアドレスでは非常に大きな範囲でしかユーザーの場所を認識できていない・適切な場所を認識できていない可能性がある。
又、日本国内にあるデータセンターを通しても、データセンターの物理的場所を反映した検索結果は取得出来なかった。
Yahoo!とGoogleの検索結果の違い
日本のYahoo!は、その検索エンジンにGoogleを採用していますが、ユーザーの情報取得方法(リソース)は各エンジン異なります。
この為、ベニスアップデートの導入により、今後Yahoo!とGoogleの検索結果(順位)に大きな差が生じてくるのでは無いかと考えました。
以上を検証すべく、同じ条件下でYahoo!とGoogleの検索結果にどの様な変化が見られるか調査しました。
参考:Google検索と Yahoo!検索の現在地情報の取得方法
調査条件は、OCNの光固定回線からプライベートブラウジングモードで両検索エンジンにアクセスし、同じキーワードを検索しました。
Googleの「世田谷区」と認識していた為、検索結果も世田谷区に関する物をY!とG両者共に返すと想定されます。
まず「区役所」を検索してみました。
両エンジン世田谷区役所を表示しており、IPアドレスからユーザーの場所をY!とGともの同じ世田谷区を認識し、検索結果を世田谷区に合わせて返しています。
「粗大ごみ 処理」も同じく、Yahoo!、Google共に世田谷区役所のHPを表示しています。
しかし、「カフェ」の場合は大きく検索結果が異なりました。
Googleは「カフェ」の地域性を高いと認識しており、世田谷区に近いカフェのWebサイトを表示し、合わせてGoogleMapやローカル検索結果も表示しています。
これに対し、Yahoo!の場合はGeolocationが加味されない一般的な「カフェ」の検索結果を返しており、途中でYahoo!ロコの検索結果を表示しています。
Googleが極めて高い地域性を認識している検索ワード「カフェ」にも関わらず、Yahoo!は通常検索結果を表示する形となりました。
「寿司」も同じく、Googleは世田谷区に近いWebサイトのURLを表示しているの対し、Yahoo!は通常の検索結果(ユーザーの地域情報を加味しないSERPs)を表示し、SERPsの途中にYahoo!ロコの検索結果を含めて返しています。
その他、地域性の高い様々なジャンルのキーワードで検索検証しましたが、Yahoo!ロコが表示されるキーワードの場合、ベニスアップデートが作動し難い仕様にあるのでは無いかと思われる検索結果が表示されました。
あくまでも予想ですが、Yahoo!が提携している他のDBに該当する検索ワードの場合、Googleベニスアップデートが動作する範囲を狭めているのでは無いかと考えます。
この為、Yahoo!ロコが表示されるワードの場合、Geolocationを加味しない通常検索結果のみを表示しており、Yahoo!ロコに該当しないワードで検索された場合は、ベニスアップデートで変換をかけたSERPsを表示している可能性があります。
Yahoo!独自の調整により、GoogleとYahoo!JAPANの検索結果に大きな差が生じる可能性があると思われます。
データの取得元はYahoo!、Google共に同じGoogleIndexであるものの、Yahoo!が独自の係数を検索結果に施しているのであれば、以前のようにY!とGが異なる検索結果を返す可能性もあります。
携帯電話回線からのユーザー場所認識はどの位正確か
恐らく今回のベニスアップデートで最も影響を受けるのは携帯電話回線を利用するデバイス、とりわけスマートフォンであると思われます。
GPSによる場所の認識を許可しない場合、Googleはどの位の精度でユーザーの居場所を判断でき、検索結果を適切な形で変化させる事が出来ているのでしょうか。
まず始めに、ソフトバンクのiPhoneを使って検証しました。
デザリングでPCからGoogleを検索すると「東京都港区」と表示されます。(※実際に検索した場所は新宿駅)
iPhoneのChrome(プライベートブラウジングモード)で検索すると、場所が不明と表示されます。
地域性が強い「カフェ」や「区役所」で検索してもベニスアップデートによる検索結果の変化は見られませんでした。
iPhoneをデザリングし、同じ回線を通してPCから検索するとIPから地域を認識し、検索結果もそれに応じて変化します。
試しに、PCブラウザのUserAgentをiOS(iPhone)に変えアクセスし直すと、地域の認識が消えてしまいます。
他のソフトバンクiPhoneで同様の実験を行いましたが、同じくPCでは地域認識しスマホブラウザでは認識しないという結果となりました。
auの回線でも同様のテストを行いました。
auのスマートフォンは持っていない為、iPhoneをwifi接続してスマホ検証しました。
なぜかau回線の場合、実際の住所「新宿」では無いものの、港区がスマホでも認識されました。
なぜソフトバンク回線ではUAがiOSになるとロケーション認識が出来ないのに対し、auの回線ではiOSでも問題なく近い場所が認識できたのかは不明です。
地域別の順位チェックツール[β版]
研究開発の観点から日本の特定地域での検索順位を測る事ができるツールを作成しました。
リンク→地域別検索順位チェックツールβ版
名古屋市や大阪市、神戸市、渋谷区など特定の地域に表示されるSERPsでの検索順位をチェック頂けます。
当ツールはβ版の為、予告なく閉じることがあります。
上はキーワード「クレープ」で検索した際の食べログの順位とランディングページURLを抽出した例です。
順位は同じ6位を維持していますが、指定した地域によってリンク先ランディングページのURLが変化している事が分かります。
バグや使用感に関するご感想などございましたら、コメント欄から送信頂きますと幸いです。
まとめ
●IPのGeolocationだけでもSERPsは変化する
●携帯電話回線の場合、やや認識エリア範囲が広く、精度に欠ける
●特定キーワードの場合、Yahoo!とGoogleで検索結果が異なる場合がある