このコラムでは、BtoBのコンテンツマーケティングの事例を紹介していきます。
前回は「サイボウズ式」のコンテンツマーケティングを紐解いて紹介しましたが、今回は「経営ハッカー」の戦略を取り上げます。
経営ハッカーとは
経営ハッカーとはクラウド会計ソフトの「freee」が運営しているメディアです。freeeは個人事業主や中小企業向けのツールで、銀行やクレジットカードの口座を登録すると自動で勘定科目をつけ、経理作業を効率化することができます。2013年3月のローンチし、2014年7月には10万ユーザーを突破しています。
今では初心者にもわかりやすいクラウド型会計ソフトとして、多くの支持を集めています。
そして、コンテンツメディアである経営ハッカーは「freee」の成長を下支えするメディアとして着実に成長しています。
経営ハッカーは2012年にローンチし、現在の記事数は約640とコンテンツメディアとしては作りこまれているサイトに位置します。
SimilarWeb Proで調べると、直近1年で自然検索のアクセスが数倍に増加しています。自然検索はサイト全体のトラフィックの54%を占めており、集客貢献度が非常に高いことが分かります。
↑Similarweb上でのアクセス推移
経営ハッカーの集客戦略
【1】「経理の効率化」ではなく「経営の効率化」
freeeはクラウド会計ソフトですので、そのプロダクトコアは「経理作業の効率化」にあります。しかし、経営ハッカーはそのテーマを「経理の効率化」ではなく「経営の効率化」としています。
たとえば、「IKEAの通販で快適オフィス・仕事部屋を実現するための事例17選」や「無料クラウドサービス総合比較!【小規模企業・個人事業主必見】」は、経営効率化のテーマで書かれた記事といって差し支えないでしょう。
サイトのテーマを「経理」に設定することも可能だったはずです。ではなぜ「経営」までテーマを広げる必要が会ったのでしょうか。
経理とは専門性が高いテーマです。たとえば、「確定申告」「青色申告」「年末調整」といったキーワードが代表的です。高い専門性が必要となる領域は他のサイトとコンテンツが類似しやすく、そのため運用歴が長いサイトが有利です。記事数や更新頻度ではなく、1記事1記事のクオリティへの依存度が高くなります。後発の経営ハッカーはAllAboutなどの有名サイトと闘いながら、検索結果上での優位性を確立しなければなりません。
よって、後発のサイトは「ユーザーにとって良質なコンテンツを提供」しながら、「隣接領域にテーマを広げながら集客口を確保」しなければいけません。サイボウズ式がサイトのテーマをグループウェアではなくチームワークに置いたように、経営ハッカーも「経営の効率化」にサイトのテーマを敷衍して記事を作成しています。
【2】作成した記事を資産化し、徹底的に活用
前回紹介したサイボウズ式ではITリテラシの高くないユーザーへの接触を多くするために拡散力のあるBLOGOSやハフィントンポストへ積極的に記事を寄稿していましたが、経営ハッカーは真逆の戦略は記事のすべてを経営ハッカーのサイト内に蓄積し、資産化する戦略をとっています。これは、検索エンジン最適化にも有効と考える事も出来ます。
広告で収益化することも経営ハッカーのアクセスであれば可能だと思われますが、他社の広告は一切設置しておらず、動線は「メールマガジン登録」と「本体サイトへの誘導」のみとなっています。
↑ページ下部には本体サイトへの導線とメールマガジンの登録ボタンが設置されています。
またGhosteryでみると、Facebookプラグインや計測タグ以外にも、いくつものタグが埋まっていることが分かります。SEOで集客したものの離脱したユーザーに、リターゲティング広告で接触を続け、想起率の低下を防ぎ、取りこぼしユーザーを刈り取ることが可能です。
↑記事にはリマーケティング用のタグが複数挿入されています。
【3】過去の資産を有効活用して自然リンクを獲得
ここで経営ハッカーの直近1年の記事投稿ペースを見てみましょう。次のグラフは月別の記事投稿数を示したものです。5月に大量の記事が投下されて以降、積極的に記事を作成していることがわかります。(補足すると、5月記事の多くは用語集)
Ahrefでインバウンドリンクの獲得数を見ると、6月後半から自然リンクの数を急激に増えていることが分かります。
↑ahrefsのインバウンドリンク推移
さらにはてなブックマークのエントリー数を調べてみると、6月末~7月上旬に多数のはてなブックマークを獲得しており、この時期に集中的にインバウンドリンクを獲得していたのではと推察されます。
↑2014年6月から7月にはてぶを獲得した記事を赤くマークしている
さて、最も多くはてブを獲得した「【永久保存版】勘定科目に関する疑問をすべて解決!勘定科目大辞典」を見てみましょう。
この記事は6月25日に公開され、経営ハッカーの中でも高い注目度を集めた記事の一つです。
記事はリンク集のようになっており、リンク先はすべて経営ハッカー内の解説記事につながっています。
↑すべて経営ハッカー内の記事にリンクされている
これら1つ1つの解説記事は2013年に作成されたまま埋もれていたのですが、まとめ記事をつくって1つに束ねることで埋没していたコンテンツに再び集客の誘導線を作りました。
用語集系のコンテンツをまとめることで、情報の価値を再び高め、多くのはてブを獲得することに成功しています。
この記事をきっかけに経営ハッカーは自然リンクを獲得。自然検索訪問も着実に増やしつつ有ります。
まとめ
経営ハッカーは、これから起業した人や起業したてで経理に困っている方などを対象に、経理というジャンルで役立つコンテンツを毎日数記事づつ公開しています。
内容の充実性と、その読みやすさではてなブックマークでは多くの支持を得ており、結果的にそれがキッカケとなってブランド名がソーシャルやWebサイトを通して拡散しているインバウンドマーケティングの成功事例とも言えるでしょう。
又、埋没してしまったコンテンツをキュレーションリンク形式でまとめる事により、再び集客コンテンツとして利用しているその運用方法も目を見張るものがあります。
B2B系商材は購入までの選考期間が長い傾向にあり、また潜在的な顧客の要望も多岐に渡ります。
この為、コンテンツマーケティングやインバウンドマーケティングとは非常に相性が良く、日本国内の優良な事例として今回は経営ハッカーを紹介させて頂きました。