みなさん、Expediaというサイトをご存知でしょうか?
熊のマスコットと黄色のコーポレートカラーが有名なオンライン航空券・ツアー・ホテル比較サイトです。
日本にも進出しており、米国に本社を構え、NASDAQに上場する大手企業でもあります。
そのExpediaですが、2年前から検索エンジン上(SEO)で表示される重要キーワードの順位が下落し、重要な集客口を大幅に失いました。
オンライン上のアクセス数を調査するSimilarwebでは、その減少は今なお続いており、この下落はExpediaの収益に大きな打撃を与えていると思われます。
↑SimilarWebのアクセス推移。過去半年間では大幅に下落している。
しかし、Expediaもただ手をこまねいているのでは無く、ちゃんと打開策を打っており、今回このブログで紹介するYoutubeでの集客戦略もその一つだと思われます。
競合他社の参入は極めて少ないものの、多くの見込み潜在顧客層が獲得できるYoutubeに注力し、再生回数と言った定量的成果を出し続けています。
今回はそんなExpedia社のYoutube集客戦略をご紹介したいと思います。
参考:Expedia Lost 25% Of Their Search Visibility
ExpediaのYoutube集客戦略
Expediaの公式Youtubeチャンネルを見ると、世界各国の都市や国に関して説明した動画が多数あります。
どれも再生時間は5分程度とやや情報量が多く、動画の内容も表面的な都市の説明ではなく、各都市の説明から歴史、観光、おすすめスポットなどを詳しく、分かりやすく纏めています。
全ての動画は英語でナレーションされている事から、最も観光総人口が多い欧米圏を狙ったものと考えられます。
「東京(TOKYO)」を取り上げたトリップガイドの動画もあり、Wikipediaに記載されている表面的な内容だけではなく、近隣の横浜や観光地としてはあまり有名ではない成田の良さなど取材をしなければ分からない事まで説明されており、その情報性は極めて高い内容となっています。
▼東京を紹介している動画「Tokyo Vacation Travel Guide」
取材費、撮影費、編集費などを考慮すると、この動画を1つ作成するのに膨大なコストを費やしていると考えられます。
定量的な効果分析
Expedia社が高額の制作費をかけて作成、公開している都市紹介動画は、実際にどのくらいの定量的な効果を生み出しているのでしょうか。
Expedia社のYoutube動画を62個をランダムに抽出し、2014年12月時点の定量的な効果(数字)を調査、分析してみました。
【分析1】再生回数
一番分かりやすく重要な指標である動画の再生数です。
何人のユーザーがYoutube上でその動画を閲覧したかを測る指標です。
上のグラフは各動画の再生数を10K(万)台でヒストグラム化したものです。
多くの動画が3万~5万以上の再生数を誇っており、人気Youtuberの動画に引けをとらない程の再生数です。
2014年12月時点で5.6Kの再生数を誇るTokyo Vacation Travel Guideの動画は、毎日700人近くのユーザーに閲覧されています。
↑「Tokyo Vacation Travel Guide」のデイリー再生数。1日平均700回以上再生されている
【分析2】Facebookの「いいね」数
拡散力が非常に強く即効性が高いFacebookの「いいね」は、ユーザーによる動画の支持を表す指標でもあります。
実際に公開して多く再生されても、その動画のエンゲージメント(ユーザー支持)を得られなければ、この施策を実施する意味がありません。
上図は各動画(URL)の「いいね」数を100のレンジで区切ったヒストグラムです。
多くのYoutube動画が100台~300台に集中している事がわかります。又、どんなに少なくとも数十の「いいね」を獲得しており、各動画が外れなくユーザーの支持を獲得している事が見て取れます。
シアトル市の動画は、いいね数が2500以上と非エンタメ系動画では非常に多数の獲得数を見せており、その品質の高さが伺えます。
【分析3】Youtube検索のキーワード順位
世界のアクセス数TOP10入りするメガWebサイトであるYoutube上では、日々多数のユーザーがYoutubeの検索窓から動画を探す為に単語を入力して検索しています。
↓日々膨大なキーワードが検索されているYoutube検索窓
過去存在したYoutubeキーワードプランナー(現在は廃止)でYoutube上の検索回数を調べる事が出来ましたが、その検索数は本家Google検索に引けをとらない程の膨大な数だった記憶があります。
上の円グラフは、各動画で取り上げている都市名(単ワード)の検索順位分布を表したグラフです。
都市名を62個調査しましたが、1/3以上のキーワード(都市名)が2位以上の検索順位にランクインしていることが分かりました。
この上位表示力は動画とユーザーの接触数と再生数を大きく上げる要素になっている事は間違いないと思われます。
Los Angeles(ロサンゼルス)やFiji(フィジー)、Hong Kong(香港)など観光地として人気の都市名で1位を獲得しており、多くの見込み潜在顧客をYoutube検索から集客できている成功例とも言えるでしょう。
YoutubeのSEO
尚、Youtube検索はGoogleウエブ検索と同じく様々なアルゴリズムで順位が決定してきます。
この検索順位も完全ブラックボックス化されていますが、Youtubeの検索要素は主に再生数や離脱、コメント数、Good評価数、動画説明文、タイトル文などが挙げられます。
Expedia社は動画を作成する際、品質と同時に集客口であるYoutube検索の順位も非常に重視してYoutubeSEOの施策を行っている可能性もあります。
【分析4】公開してから経過した時間(月単位)
Youtube上に公開してから、どの位の時間が経過したのでしょうか。この時間要素は再生数やYoutube上の検索順位にも大きく関わると考えられる為、調査分析対象としました。
上図は月(ヶ月)単位で公開からの経過時間をプロットしたヒストグラムです。
2014年12月時点で、多くの動画が公開から12~15ヶ月ほど経過している事が分かります。一部の動画は最近公開したものもありますが、多くがやく2年近く経過している事が分かります。
経過時間とその他の指標の関係性
動画をYoutube上で公開してから経過した時間と、再生数や検索順位などの他の指標は関係性があるのでしょうか。
この関係性の有無はなんとも言えませんが、Expedia社のYoutube動画の推移を見る限り、その関連性は低い傾向にあります。
上図は公開から1年以上経過している動画と、半年未満の動画を並べた表です。
半年未満しか時間が経過していないにも関わらずYoutube検索順位が1位に位置している動画もあれば、1年以上も経過しても8位の動画もあります。
各キーワードの参入競合動画やキーワードの検索回数など様々な要素が入り交じる為、公開経過時間と他指標の関係性の有無はなんとも言えませんが、それ程関係性は内容に思われます。
定量指標分析のまとめ
●合計再生回数の平均は5万回
●Tokyo Vacation Travel Guideの動画は毎日700以上もコンスタントに再生されている
●Facebookの「いいね」は平均100台
●対策キーワードの4割近くがYoutubeの検索順位で2位以上
●多くの動画が公開後12~15ヶ月経過している
Expedia社の顧客育成戦略
驚異の再生回数とYoutube検索の上位順位を獲得しているExpedia社ですが、一体どのようにしてカスタマージャーニーを構成してるのでしょうか。
あくまでも想定ですが、下記のように考えました。
【顧客行動1】超潜在的な情報欲求から顕在まで集客
都市名で検索するユーザーの情報検索欲求は多岐に渡りますが、旅行系の検索行動であれば、主に2つの顧客層が存在すると考えられます。
顧客A:超潜在顧客
超潜在顧客層です。クリスマスやサンクスギビングデーなど大きな休みが近づくに連れ、休日を過ごすプランを考え始め、おもむろに気になっていた都市名を検索するユーザーです。
まだ明確な旅行のプランや行き先などを考えていない超潜在顧客層です。
顧客B:顕在顧客層
すでに行き先や旅行プランを明確に決めており、チケットも予約済みの顕在顧客層です。旅行を楽しみにする気持ちを抑えられず、いく前からYoutubeで下調べをする様なユーザーでしょうか。
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今回このブログで取り上げているExpedia社のYoutubeマーケティングの戦略は、潜在顧客層を獲得する事にあると想定される為、顧客A(潜在顧客層)を対象としたカスタマージャーニーを考えてみたいと思います。
【顧客行動2】ランディングページへの誘導
動画を再生したユーザーの内、Expediaの収益サイトであるExpedia.comへ見込顧客を送客します。
各動画にはランディングページへのリンクが最上部に設置されており、潜在顧客ユーザーの誘導を図っています。
主な誘導導線はこのリンクのみであり、それ意外はExpediaのYoutubeチャンネルのTOPページに設置があるリンクのみとなります。
【顧客行動3】ユーザーの興味関心を創造
実際にランディングページへアクセスすると、一般的な旅行比較サイトのようなツアーやチケットの価格一覧は一切表示されず、都市に関する旅行名所のコンテンツが多数並んでいます。
観光スポットのガイドコンテンツを通して、都市の良さを潜在顧客層であるユーザーに伝えていきます。
有名な観光名所を事細かく説明した文章コンテンツや観光名所を撮影した数多くの写真などを通して、ユーザーは検索した都市にやや持っていた興味が次第に「行きたい」という意思に変化していきます。
まだ見込みが低く、ざっくりとした意思しか持っていなかったユーザーを動画(Youtube検索)という切り口から集客し、ランディングページのコンテンツでさらにユーザーの購買意欲を強化していく流れになっています。
【顧客行動4】コンバージョン(マネタイズページへ誘導)
Expediaのランディングページ(コンテンツページ)には、ページ下部にツアーやホテルの詳細ページへのリンクが設置されています。
集客した潜在顧客層の意欲・関心をコンテンツページで強化し、マネタイズページであるホテルやツアーの詳細ページへ送客します。
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このカスタマージャーニーにより、激戦区であったSEOやリスティング広告から脱し、Youtubeという新たしい集客口から優良潜在顧客を集客しています。
Youtubeから集客したユーザーをコンテンツを通して関心や興味を高め、最終的なコンバージョンへと導いています。
超潜在顧客の時点からコンテンツを通してユーザーの興味関心を創造し続ける為、途中での他社への流動も防ぐ事が可能と考えられます。
まとめ
今回はYoutubeという新たな集客口で活路を見出しているExpedia社の事例を紹介しました。
過去SEOでの大幅な下落がExpedia社の新Webマーケティングの施策実施に良い形で加速させ、結果的に競合他社がまだ開拓しきれていない領域で多くの優良見込顧客を獲得し始めています。
この様な事例はYoutubeのみならずPinterestやLinkedin、Lineなどでも言えることでしょう。
まだ誰も気づいていない集客方法とユーザー育成のコンテンツマーケティングの両方を上手く組み合わせ、新たな優良顧客を獲得できればと思います。
参考:
・Expedia社の公式Youtubeチャンネル
・[競合] Expoza TravelのYoutubeチャンネル